■横浜動物の森公園ズーラシア(都築自然公園)
■オセアニアの草原
 「オセアニアの草原」では、オーストラリア大陸の乾燥草原とそこに生息する有袋類など特色ある動物の展示を行っている。乾燥した気候と情景を表現するため、「広がりを示すなだらかな丘陵上の地形」「風化を示す巨石」「ブッシュを示す徒長した枝振りの灌木」、そして「オーストラリア特有のユーカリやアカシヤの疎林」といった景観要素を組み合わせている。  アカカンガルーパドックでは、エミュー、ロウバシガンなどの鳥類と混合展示を行い、動物たちがテリトリーを守るため牽制し会う様子を見る事が出来る。こうした動物の行動展示が、動物の生態を生き生きと伝える。アカカンガルーパドック前にはオージ・ヒルと名付けられた休憩広場が広がる。この広場ではアカカンガルーパドックと同様の修景を行い、草原の広がりを強調すると同時に観覧部と展示部が一体になるようにしている。また「広がりを示すなだらかな丘陵上の地形」と「風化を示す巨石」は、それ自体深さ2.5mのモート(堀)となっており、逃亡防止施設の存在を観覧者に気づかせないようにしている。  キノボリカンガルーパドックは、アカカンガルーパドックを取り囲むユーカリ類の疎林内に位置し、樹上生活という動物の生態と情景を一致させている。擬木を組合わせて展示動物が留まる場所(ステージ)を目線の高さに配置し、展示動物本位の行動を促すと同時に動物の観察を容易にするようにしている。  観覧部分には風化した砂岩をかたどったストーンアーチを設置している。これは乾燥した気候の中での風の力を伝えながらビューイングポイントを観覧者に示す。またアボリジニの砂絵や巨石に刻まれた模様は、オセアニアの文化的特徴を伝えている。
 
■中央アジアの高地
 中国華南省山岳地帯を景観テーマとし、景観要素には「竹林」「山水画を思わせる渓谷」、そして「奇妙な形に浸食された石灰岩の岩場」を選んでいる。このゾーンでは「3つの展示のうち2つはサル類の展示でケージを使わざるを得ないこと」、「面積が限られておりケージを植裁で隠すのが困難であること」といった無柵放養式展示にとって不利な条件がそろっていた。そこでケージを隠蔽するため、竹垣や人家といったこの地方の集落景観の一部を景観要素に加え、「人の生活空間と自然の世界との仕切り」として位置づけた。それらは観覧部において額縁となってケージの存在を来園者に気づかせず、ゾーン空間においてもケージを覆い隠し、その存在感を弱めている。  空間構成は人家を模したビューイングシェルターとその前提を中央に配置し、この集落空間から外側の自然界を覗き込む構成となっている。ここでは集落空間も重要な展示施設であり、来園者を演出景観に浸り込ませるため展示パドック以上の配慮をしている。ビューイングシェルターでは瓦などの材料は現地で調達し、工法も施工性、耐久性などに配慮した上で再現している。前底部の天然スレートを用いた舗石、石灰岩のテーブル、景石の形状、竹の植え方にも中国独特のデザインを取り入れた。  キンシコウの展示では、擬岩造形により渓谷の情景を再現しているが、自然石(中国産の川石)を組み込む事により擬岩造形だけでは表現しにくい立体感を出すようにしている。植裁は展示動物が樹上生活を好み、かつ動きが激しいので、まず枯れ木を模した擬木と擬ツタで樹上生活の場を作りその周辺に生の樹木を植裁して、樹木を保護すると同時に擬木の違和感を消すようにしている。  植裁は中国産の植物を主にしているが、ベニホウオウチク、シホウチク、カットウジャクチク、ホウライチクといった中国原産の竹類は富士竹類植物園の協力、指導により2年間かけて育成した上でここに植裁した。
   
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■日本の山里
 展示テーマは、この動物園が立地する神奈川県域で見られる「山里の景観」である。それは乾湿、標高そして四季の変化などによって様々な表情を示す。その景観の変化とそこに生息する動物を展示する。 空間構成は、「谷戸から沢筋を上流の滝まで分け入り、そして再び人里へ戻る」までの景観をモチーフとしている。まず「人里近くの水田と山里の接点となる谷戸の最奥部の湿地」と「山林入り口に広がる藪」によって次第に山間部へ分け入っていく情景を示し、ツキノワグマパドックの「山林(常落混交林)と滝」でこの沢筋を下り「ニホンザルの渓谷」から「スギ、ヒノキの人工林」を経てまた人里へ戻っていく。この細かい景観設定により「山里の景観」が多種多様な植物によって構成されていることや四季による変化を再現している。 鶴類の展示では、ウォーターモートにヨシやヒメガマなどの水生植物を植裁し、特殊な湿地の環境を再現している。整備後、ウォーターモート内に当初想定していなかったカエルやメダカなどの生息が確認され、ツルがそのカエルをついばんでいることも観察されている。このような状況は、擬似的な生息域展示から一歩進んだ「生態系を含んだ生息域展示」としての可能性を示している。 ツキノワグマの展示は滝、流れそしてウォーターモートの池の水域と藪や疎林部といった多くの景観要素をパドックに盛り込み、広い行動範囲を持つクマの生態に対応できるようにしている。  また、農家の納屋を模したビューイングシェルターや炭焼き小屋のレプリカといった環境演出展示が、伝統的な山里での生活様式を伝える。
   
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■アマゾンの密林
 アステカやマヤといった南アメリカ大陸の文明をモチーフとしたアマゾンセンターの前庭からこのゾーンは始まる。ここでの景観テーマは「アマゾン川流域の熱帯密林」である。熱帯雨林の景観を再現するため、「ヤシ類と常緑高木を高密に植裁した植裁地」「沼とそこを渡る木道」「雨に洗われた崩れかかった崖」、そして「現地の住居をモチーフとした休憩舎やビューイングシェルター」を景観要素にしている。  空間構成は、オオアリクイ展示のアマゾン川流域の沼地から密林に分け入り、次第に標高を上げて山岳地帯へと移動していく過程を表現している。このゾーンの最後に位置しているメガネグマの展示は次期開園部に続く「アンデスの高地」の情景に含まれており、「アマゾンの密林」と「アンデスの高地」によって「南アメリカゾーン」が完結する予定である。  オオアリクイパドックは観覧部の沼から流れ落ちる小川をパドック内に設置し、観覧部と展示部が一体の空間になるよう配慮している。オセロットパドックでは樹上生活を好むことから、擬木と生木の切り株によって動物画登りやすい場所をパドック中央に配置し、動物が見やすい位置に来るよう配慮している。  現地の住居をモチーフとしているが、休憩広場の草葺きの1本柱のシェルター群は、ペルー山岳地帯のマチゲンガ族の住居をモチーフにしている。こうした集落の情景に皮付きの丸太を材料に用いた人止め柵や、崩壊地を表現した石組みなどが加わりアマゾン川流域の荒々しい情景を再現する。
■イメージ
       
■業務データ
件名 横浜動物の森公園ズーラシア
(都築自然公園)
発注元 横浜市
業務内容 アジア、極地ゾーン基本・実施設計監理、
植物公園部分導入施設等検討、乗車移動施設・園地休憩施設、
オカピの森/ボルネオオランウータン/アフリカジャングルゾーン
   
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